++君がいたから++


オレの名は本田 あつし

オレが君と初めて出会ったのは、荒れ果てた教室。

ただの人間のクセに生意気なヤツだと
初めはそう思っていた

それだけだったのに
平気でからかうことができたのに


今は―――……



『遠隔操作君!』

明るい声でイキナリ話し掛けられ、不覚にも顔が熱くなる。

『…なんだよ?』

できるだけ表情を変えないように努めながら言葉を返す。

『アンタの本当の名前、知らんかったん…教えてもらえへん?』
『何で…星無しなんかに…っ』

そう言いながらも、本名を聞きたがってもらえて、心は踊っていた。
でもやっぱり、好きな人には意地悪をしたくなってしまうのが、男という生き物。

『じゃあさ、勝負しようぜ』
『ウチが勝負に勝ったら、名前教えてくれるんやなッ?』
『いいぜ、勝ったらな。』
『よし、受けて立つで!』
『…負けたら、オレが星無しに命令をするからな』
『絶対ウチが勝つからなっ!』

ふいに、オレはある考えを思いついた。
もしオレが勝ったら、その時は――…

『勝負の内容は何や!?』
『北の森で宝探しってのはどうだ?』
『かまわへんでッ!宝探しでも間違い探しでも何でも来い、や!!』

訳のわからないことを言ってはいるが、勝ち気なその笑顔も、また可愛い。

『じゃあ今日の放課後、パートナーを一人だけ連れて、北の森に来いよ』
『ウチ、負けへんからな!!』

アイツとオレ、2人だけの関わりが持てた…それだけでオレは嬉しかった。




彼女は、副委員長の今井を連れて、北の森へとやってきた。

『来たか、星無し。』
『一応言っておくけどな、ウチはもう星無しやなくて、立派なシングルやっ!!
 ちゃんと名前で呼んでや!』
『…星無しは星無しで充分なんだよ』

名前で呼ぶなんて、そんなこと、照れ臭くて出来やしない…。

『オレのパートナーは、棗さんだ。まあ、この時点で勝敗は決まったようなもんだな』

この勝負には、絶対勝ちたい。ある考えが頭の中で繰り返される。

『さっき、ルカ君に宝箱を隠してもらった。開くと花火が上がる、《ドッカン宝箱(蛍作)》だ!』
『その宝箱を先に見つけて開いたチームが勝ちってことやな!』
『そうだ。まあ、星無しがどんなに頑張ったところで、結果は同じだろうけど』
『やってみなきゃ、わからへんやんか!』
『…どうだかな。ルカ君、合図をよろしく』!

大きな鷲の足につかまりながら、ルカが空へと舞い上がった。

『…位置について、ヨーイ…ドンッ!!』

ルカの合図と同時にに、蜜柑チームは森の中へと走り出す。
蜜柑達の後ろ姿を見て、怪しげに笑みを浮かべる。


『棗さん…バカっすね、アイツら。オレがアリス使えば、一発でオレらの勝ちなのに……』
『頭使えねえもんな、アイツは…』

ため息のようなものを漏らしながら、彼は言った。
すると、彼は思い出したように付け加えた。

『…あ、でも…アイツの親友とやらは、水玉の数倍頭が冴えてるから…厄介だな…』

無表情のまま、そんなことを言うものだから、オレはつい、吹き出してしまった。

『…何だよ…』
『いや…その通りだなと、思ったんで…』

笑いながらも、心中では別のことを考えていた。
こんな風に、普通に話したりできるようになったのは
いつからだったろう―――?
以前だったら、棗さんの前で笑ったりなんかしたら、炎で燃やされてもおかしくなかったのに……

『…おい、とっととアリス使って箱を取った方がいいんじゃねぇか…?』
『……あっ、はい!』

いきなり話し掛けられ、考え事をしていたオレは少し驚いた。

『…早くしねぇと水玉の親友が箱を見つけちまうぞ。…あのブスに負けるのは癪にさわる…』
『違いないッスね…。』

少しだけ笑いながら答える。

『棗さん、すみません…棗さんやルカ君を、くだらない事に巻き込んじまって…』
『…別に。頼まれたから来ただけだ。…暇だったし』

彼のそんな言葉が、なぜか嬉しかった。
〈仲間〉だと、認めてくれているような気がして……。

『……よし、じゃあ箱を取ってきます…』

遠隔操作で箱を自分のところへと持ってくる。

『…やりました!棗さん!!』

オレは有頂天だった。この箱を開いて、勝利の合図を空に打ち上げれば
すべてがオレの思い通りに終わる。
オレは彼女に命令をするんだ。恋を叶えるために

――――オレと付き合え、と………。

オレは度胸がないから、こんな手を使ってでしか
君を手に入れることが出来ないんだ―――――……。


そんな風に自分を正当化しながらも、心の奥が締め付けられるように痛かったのは
言い訳を言っている自分に、心底嫌気がさしていたからかもしれない――…。


箱を開けることに、何となく、迷いが出てくる。次第に手が震え出す。
すると、震える手から、箱が滑り落ちてしまい―――――――



―――ヒュルルルルルル……………パアアァァァ―――……ン



生い茂る木の隙間から青い空へと向かって、高々と花火が打ち上げられた。


数分後、森の奥から、息を切らしながら2人の少女が姿を現した。


『あぁ〜ッ、悔しい……負けてもうたぁ〜〜〜…』

ヘナヘナと、彼女は地面に座り込んだ。

『…自業自得ね。アンタが悪いのよ』

彼女の親友である今井は、ハァハァと肩で息をしながら突き放したように言う。

『…うぅ〜ッ…蛍…ヒドイわ…。』

泣きながらしがみつこうとする彼女に、発明品の《バカン砲》とやらをお見舞いする今井。

『……まあ、ええわ。約束やもんな…。何でも命令しいや!!』

彼女はどこまでも真っ直ぐだ――…

なのに

なのに、オレは―――……

自分が心底嫌になる。


今こうやって、オレが棗さんやルカ君と、前以上に仲良くなったのは
彼女が、棗さんの闇を和らげてくれたから。

今こうやって、みんなが楽しくすごせるのは
彼女がクラスみんなの心を1つにしてくれたから。


すべて

君がいてくれたからなんだ―――――………


『…じゃあ、命令……言うよ……』
『何でも言うてみ!!』

彼女の瞳を真っ直ぐに見つめながら、真っすぐな心で言った。

『…オレのコト、本名で………あつし…って、呼べよ…。』
『………!!!』


アリスに頼らず、自分だけの力で君を手に入れようと

心に誓った。


それはきっと、とても大変なことで
いくつもの困難にも、立ち向かわなければならないはず


でも

それを乗り越えようという〈勇気〉を
持つことができたのは




――――君がいたから。




*END*




*おまけ*

これは、蜜柑達が宝箱を探して、森の中をさまよっていた時の話。

『…蛍〜…宝箱て、どこにあるんやろな…森の住人なら、わかるかもしれんなぁ♪』
『…蜜柑……あんまり動き回らないでよ…。
 …アンタが動くと、この世の悪事も動き出すじゃない―――……て
 言ってるそばから…あのバカ…』
『お花さ〜ん。ちょっと聞きたいことがあるんやけど…』

地面にポツンと咲く一輪の花に話し掛けている。
蛍は首を傾げる。

(…何でここには、この花一本しか咲いていないのかしら…
 花はまとまって咲いているものじゃ―――……?)

『お花さ〜ん。宝箱が何処にあるか、知らん?…お〜い…』

蜜柑がその花に手を延ばした。
すると、その花に、何か光る物が見えた。

(―――まさかッ!!)

『――蜜柑!!!バカッ、その花から――――………』
『―――えっ!?』


先程の小さな花は巨大な人喰い花と仮し、大きな口を開いて蜜柑を飲み込もうとしていた―――。

『……ひっ…!!やだあぁぁぁ―――――!!!!!』
『―――蜜柑ッッ!!!!』


『―――かん………蜜柑…!!!』
『……へ?――蛍ッ!?……ウチ…食べられとらん…?』

蜜柑は自らの無効化のアリスにより、身を守っていた。


―――バカン!!

―――バカンッ!!


『…早く立ちなさい!!バカ蜜柑!!』

バカン砲を乱射しながら蛍が叫ぶ。
蜜柑は言われた通りに立ち上がり、危なっかしい足取りで蛍に駆け寄る。

『…私の合図で走るのよ!!!』
『…うんっ!!』


『―――今よ!!!』


2人は人喰い花に背を向け、全速力で森の中を走り抜けた。

『……バカね…。宝箱感知マシーンくらい、用意してあったのに』
『それを早く言わんかい!!』


―――ヒュルルルルルル……………パアアァァァ―――……ン


青い空に、高々と花火が上がった。


『…うそ……ウチ、負けたん…?』
『……割と近い所にいるみたいよ、あの2人。行くわよ』
『……うん』
『…さっきの救出代、貸しにしておくわね』
『……うん……えぇ!?』
『…その上負けるなんて…かなりの額になりそうね』
『…ほ…蛍゙ぅ゙…』

蛍への借金が更に増えた蜜柑なのでした。




*end*

後書き

冨村 モナカ様のサイトでキリリクとして頂きました!!
アニメ版の学園アリスでは登場回数が比較的多かった遠隔操作君視点による蜜柑総受け小説です。
因みに、本田 あつしと言う名前は管理人が自分勝手に考えた名前ですので真に受けないでください。
(オフィシャルだとメインキャラ以外の人の名前が出てくる機会がなさそうだと思いましたので…)
素晴らしい小説を ありがとうございました。

2005.9.15