《お見舞い》



初等部寮の食堂では、人々がそれぞれ夕食を食べていた。
だが、いつもいる元気いっぱいの女の子がいない事に初等部B組の委員長は気がついた。
そしていつも一緒にいる蛍に話し掛けた。


「あ、蛍ちゃん。蜜柑ちゃんはどうしたの?」

「…あぁ、風邪引いたみたいよ…バカは風邪引かないっていうの嘘みたいね…ふぅ」

「…そんな、蛍ちゃん…でも蜜柑ちゃん、大丈夫なの?」

「たぶん、ご飯食べれば大丈夫だと思うわ。後で持っていくけど、委員長も行く?」


そう言いつつ、蛍はそばで食事している棗と流架を横目でチラリと見た。


「うん、心配だから僕行くよ!!」

「……じゃあ、お粥もらって来るから後でね。」


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「…委員長お待たせ……あら、ルカぴょんに棗?どうしたのかしら」


口の端を少しあげて『分かっている』のにワザと『分からない』様に蛍は二人を見ると、
流架は少し顔を赤らめて、棗はムッとした顔になった。


「…えっと……佐倉大丈夫かなって……////」

「………風邪引いた馬鹿でもみてやろうかと思ってな…」


「………プリン…」


「「……はっ?」」


突然、発しられた言葉に二人はポカンとする。


「…風邪引いたとき、あのバカが食べたいって言うのよね。見舞い来るなら持って行ったら?」


そう二人に向けて話すと委員長、行きましょ。と言ってサッサと蜜柑の部屋に行ってしまった。
残された二人は互いを見ると、プリンを買いに行った。



『MIKAN SAKURA』


という表札の前に流架と棗は、買ってきた見舞いの品を持ちやってきた。

―トントン…


とノックをすると、中から弱々しい声が返事をした。


『…はーい?誰ぇ?どーぞ』


ガチャリとドアを開けると、六畳間の部屋のベッドの上に赤い顔をした部屋の主・蜜柑がいた。(おまけに蛍と委員長もいた)


「ルカぴょんに棗?どしたん?」

「あっ…えと……見舞い…よかったらコレ…」


と言って流架は、プリンを差し出した。


「……わぁ、ありがとう♪」


にっこり笑う蜜柑に流架は顔を赤くしたが、次の瞬間―――


「ホラ、蜜柑サッサと食べちゃいなさい!!あーん」

「あ、あーんvV ////」


なぜか、蛍が蜜柑にお粥を食べさせているのだ。
嬉しそうに食べる蜜柑の顔は本当に可愛らしくて、
 そしてちらりと流架と棗を見る蛍の意味深な笑いは、流架と棗の心に闘争心を燃えさせた。


「蛍が食べさせてくれるなんて、久々やなぁ〜vVウチめっちゃ嬉しいわ♪」

「あら、そう?(だって牽制しておかないとね)」

「っはぁ〜、ご馳走様でした。」

満足そうに蜜柑は、そう言うと、ウズウズと流架が持っているプリンを気にしだした。
しかし、横からストップがかかった。

「蜜柑、先に薬飲みなさいよ!!…あ、委員長コレ片付けてくれる?」


えぇー!(と頬を膨らます蜜柑を余所に蛍は持ってきたトレイを委員長に渡していた。


「うん、いいよ。…えっと、じゃあ蜜柑ちゃんお大事にね ////」

「うん、ありがとうな♪委員長」


そう言って委員長は、部屋から出ていった。
残るは、蛍・棗・流架。


「ホラ、蜜柑。薬」

「う゛ーー、ウチ、粉薬キラーイ!!」


そう言って、布団をかぶさる蜜柑は何故か可愛らしくて、見ていた流架は少しだけ、顔を赤くした。


「じゃあ、錠剤なら飲むの?」


粉薬と錠剤を目の前に突き出され、蜜柑はうっ、となり潤んだ瞳で蛍を見上げた。


「……だって薬、キライなんやもん…」

「だからって、飲まなきゃ治らないわよ!!いい加減飲め!!このバカ!!!!」


ギャーギャー騒ぐ蜜柑と蛍の掴み合いを見て、流架はオロオロし、棗はイラついていた。
そして、ぐいっと蛍から薬を取ると口の中に入れ、水を口に含むと、あっという間に蜜柑の口を塞いでいた。


――ゴクン…


「……飲めたじゃねぇか…」


口の端から漏れた水を親指で拭うと棗は、にやりと笑った。
蛍は、もの凄い形相で棗を睨みつけ、当の本人の蜜柑と見ていたはずの流架は
何が起きたのか分からない様な顔をしていた。


「……な、何するんやっ!!!? ////////」


ハッとして、蜜柑は棗に向かって言うと、ニヤニヤしながら棗が


「……口移し。
ごちゃごちゃ薬ごときでうるせぇから“パートナー”のよしみで飲ませてやったんだろ。」

「な、な、な、////////そんなコト誰が頼んだぁ〜!!バカーーー!!!!」


顔を真っ赤にして、叫ぶ蜜柑を余所に棗は飄々としたものだった。
彼にとっては、蜜柑の怒りより蛍の怒りの方がやっかいで、ちらりと見て笑うものなら、
ドス黒いオーラを出して憎しみを込めて嘲笑っていた。
正に一触即発である。



一方、親友の流架は顔面蒼白になり、腕の中にいるウサギンはハラハラと流架の心配をしていた。
そして、蛍は棗を引っ張って部屋に出ていった。


「〜〜〜うーー////…口の中苦いよぉ〜流架ぴょん、プリンちょーだい?」


蜜柑はそばに置いてある水を沢山飲むが口の中の苦さは取れないのか、傍らに立つ流架に向かっておねだりした。


「え、あ、ほら…」


ベッドの傍にある椅子に座り、蜜柑をみた。
キスされたから顔が赤いのか、熱があるのか赤いのか何だか、やるせない気分になった。
ガサガサと袋から、プリンを出して渡そうとすると、蜜柑がウズウズと待っている。
先程のコトは忘れたのかプリンを見て喜んでいた。
そして、流架にとっては思いもよらない展開になった。


「流架ぴょん、あーんってやって♪」

「……な、なに言ってんだよ!?////」

「えーー?だってウチ病人やし、蛍はやってくれたんやよ?」

「………で、でも…イヤじゃないのか?」

「別に。あっ、でも流架ぴょんがイヤなら…別に無理しなくても…」


天然なのか、いきなり変なコトをいう少女に面食らったが、別にイヤではない。
むしろ、さっきの棗の行動の所為で自分も蜜柑に触れたかった。
そして、風邪とはいえ少し元気がなく、しょんぼりしている彼女は見たくない。
プリンの蓋を開け、スプーンで掬うと


「……ほ、ほら…口開けて…////」

「わぁ、ええの!?あーんvV…(パク…)……美味しい♪」


笑顔で答える彼女が眩しかった。
照れ隠しなのか、流架はあまり顔を見ないようにしながら蜜柑にプリンを食べさせた。
半分くらい食べると、蜜柑が今度は流架を見ていた。その視線に気付き、顔を赤らめたまま訊ねてみた。


「〜〜〜さ、さっきから何見てんだよっ!! ////」

「……ねぇ、流架ぴょん?さっきから顔赤いけど、もしかして風邪移った?」

「え?べつ……に…!!!? ////////」


あまり顔を合わせないようにしていたが、顔を上げてみると蜜柑の顔が、
目の前にあり、ますます真っ赤にになってしまった。
それというのも、蜜柑が自分の額を流架の額に合わせているからだった。
腕にいるウサギンは、真っ赤になりながら上を見上げていた。

「…んーー…熱はないようやなぁ〜」

「…さ、さささ、佐倉っ //////////// 」


とその時、ガチャリと部屋のドアが開き、入って来た蛍と棗は、あまり表情には出さないがびっくりした目で二人を見た。


「あ、おかえり〜蛍vV」

「「………………な、にやってん(の・だ)?」」

「えっ……あ……////」

「あんな、流架ぴょんの顔が赤いから熱計ってんねん。でも大丈夫みたいや♪」

「………へぇ〜そうなの?流架ぴょん?」


確認するかのように、蛍は横目で流架を見て聞くと、視線がイヤなのか汗をだりだり掻きながら流架は頷いた。
そして、親友からも不機嫌なのが分かる痛ーい視線が刺さっていた。


「……うん、熱計っただけ…大丈夫だから…////」

「……まぁ、いいわ。さて、そろそろ行くわね。蜜柑、きちんと寝てなさいよ!!…ほら、アンタらも出なさい!!!!」


蛍は、そう言いながら棗と流架を掴んで部屋から出ていこうとした。
蜜柑は、慌てて


「流架ぴょんっ……見舞いありがとなっ!!ウチ、嬉しかったvV」


ニコリと満面の笑みをすると、棗が


「…オレには礼はないのかよ、水玉」

「……誰がお前なんかにぃ〜〜!!!!………………でも…一応来てくれたんだから、言っとくわ、ありがと。」

「…………フン」


―バタン


「「「…………………」」」


3人は、しばし沈黙したまま部屋の前で互いが互いを見ていた。
沈黙をやぶったのは、やはり蛍だった。


「……さてと、中々やってくれるわね。お二人さん?」


その顔は、冷笑としかいいようがない表情で、流架は少し恐いと感じた。


「………別に、薬飲ませてやっただけだろうが」

「だからって、あんな飲ませ方があるかしら?蜜柑は私のモノなのよ」

「……誰が決めたんだよ?んなコト」

「あら、私よ。手出し無用よ」

「……そんな威し効くかよ。」

「……俺も退く気はないよ」

「中々、言うわね。まぁ、私に勝てたらいいわよ。でもまだまだ無理だと思うけどね…フフ」

「「…………っ」」


とそこで、部屋のドアが開き蜜柑がひょいと顔を出した。


「なんや、声がすると思ったらまだおったんかい?あっ、蛍、今日はどうするん?」

「……そうねぇ〜今日も泊まってあげるわ」


横目で二人を嘲笑うようにチラりと見ながら答えると蜜柑は嬉しそうに


「やったぁ♪蛍、大好きやっ!!!!」


と言って抱きついてきた、二人の顔がますます引きつるのを見て、愉快でたまらない。


「じゃね、二人とも。蜜柑のお見舞いありがとね。さっ、早くアンタは寝なさい!!」


ドカッと蹴りを入れながら蛍は蜜柑を部屋に押し込み、二人に向かって


「じゃあ、おやすみなさいね」


と同時に、舌を出しドアを思いっきり閉めた。


「………にゃろう…」

「……あいつ…」


二人は、部屋のドアの向こうで笑ってる彼女の親友を殊の外憎らしいと感じた。



なんたって、見たい寝顔を独り占めするんですから…




END


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あとがき

無駄に長い話でした。
蜜柑総受けになりますね。
みんなそれぞれ、おいしいトコ取りしてます。

・蛍=お粥食べさせ、一緒にネンネ
・棗=口移しで薬飲ませ(キャーvV)
・流架=プリン食べさせ、おでこで熱計り

蜜柑は罪な女の子ですvV

'04/9/16


※管理人の後書きは「嫉妬と不安」のページに御座います。