++年末のボーナス++



12月31日のアリス学園。
除夜の鐘を聞いてカウントダウンを待ち望んでいる者やセントラルタウンで
新年に向けての買い出しをしている生徒で賑わっていた。
初等部で元気いっぱいの女の子・佐倉 蜜柑の誕生日は1月1日であり
その日を今か今かと待ち望んでいる者がいた。


「もうすぐで1月1日か……」


高等部の寮の部屋の一室に男子が集まっていた。
高等部の男子5名。


「先輩。今年最後の蜜柑ちゃんの映像をテープに収めました」

「ご苦労……。下がって良いぞ」

「はい」


中等部の男子1名が高等部の男子の部屋に入り、テープを手渡した。
テープを受け取った男子は満足げに笑みを浮かべ、中等部の男子に下がるよう命じた。


「それでは、再生する」

「「「「はい!」」」」


先程、受け取ったテープをデッキの中に入れてリモコンで再生ボタンを押した。
可愛らしい笑みを浮かべた蜜柑の姿が映し出されていた。
その光景を目の当たりにした男子の1人が頬を真っ赤に染めた。


「素晴らしい……。これこそが、麗しい蜜柑による天使の微笑み。
 ……いや、蜜柑本来の天性の輝きだ!!

「『プリンセス・ミカン』 会計 山岸 純平(やまぎし じゅんぺい)」
「はい」

「『プリンセス・ミカン』 書記 功刀 晴海(くぬぎ はるみ)。児玉 久志(こだま ひさし)」
「「はい」」

「『プリンセス・ミカン』 副会長 椎野 大介(しいの だいすけ)」
「はい!」

「そして……、『プリンセス・ミカン』 会長 皆川 学(みながわ まなぶ)!!
 今年最後のミッションを何としてでも成功させる!!
 それは……、『蜜柑と一緒に新年を迎え、誕生日を祝う』だ!!」


『プリンセス・ミカン』とは……!?

国立アリス学園に存在する佐倉 蜜柑のファンクラブであり、会員の殆どが
中・高等部の男子であり、正確な会員人数は不明。
活動内容は、「皆で、麗しい姫君を愛し、称え、守ろう!!」であるが
平たく言えば「抜け駆けすんなよ この野郎」である。
『プリンセス・ミカン』には厳しい掟によって定められている。

1.話しかける時は常に2人以上で。
2.姫の私物を持ち出さない。 執行部の許可無しに姫のいる寮の部屋に行ってはならない。
3.呼称は以下の通りに

執行部のみ 『蜜柑』
高等部    『蜜柑ちゃん』
中等部    『佐倉さん』

なお、掟を破った者は会員でなくとも会長自らが処罰を与えると言われている。
以上をもちまして解説終わり。


「許さないぞ……。だらしない3年が卒業して、ようやく正しい
 『プリンセス・ミカン』のファンクラブ活動が出来るかと思いきや
 日向 棗と乃木 流架の蜜柑に対して、目に余る数々の無礼!!
 何の権利があって蜜柑の側にいては、なれなれしくし、これみよがしに抱きついたり
 手を握ったりなど……まさに許されざる大罪だ!!
 それが原因で、蜜柑があのガキ2人に騙されては、不幸な学園生活を
 送るんじゃないかと思うと……」||||

「弱気になるな、皆川!!そんな野郎共から俺達が蜜柑ちゃんを
 守らなければならないんだ!!」

「記録によりますと、告白をしようとしたり、セントラルタウンに誘おうとした会員は
 ことごとく失敗に終わり、後を絶たないんだとか」

「その原因は……蜜柑ちゃんの友達である今井 蛍。
 それと、日向 棗と乃木 流架の手によるものです」

「どうするんだ、皆川。このままストレートに蜜柑を誘おうとしても今井 蛍らに見つかって
 とんでもない目に合わされるのが関の山だぞ」


書記の功刀は会員の過去の行動記録を会長の皆川に見せた。
どのページも告白やデートの誘いに成功した試しがない内容ばかりだった。


「こうなったら、仕方がないな…」

「どうするんだよ?」

「初等部の寮に潜入する!!俺に続け!!」

「「「「はい!!」」」」


こうして、『プリンセス・ミカン』は蜜柑のいる初等部の寮の潜入を開始した。
初等部の生徒の見つからないよう、何とか蜜柑のいる部屋まで辿り着き
無事に会う事に成功した。


「……と、言う訳なんだよ。
 セントラルタウンにある良い店を紹介するから、俺達と一緒に行かない?」

「えっ、そうなん!?それじゃあ、蛍達も……!」

「それが……、その店は完全予約制で指定した人しか中に入れないんだよ」(大嘘)

「ええ〜……、蛍達と一緒に楽しい新年を迎えたいのに……」

「まぁまぁ、俺達が今井さん達の代わりに盛大に祝ってあげるから……」

「先輩達がそう言うなら嬉しい!!////」

「それじゃあ蜜柑。セントラルタウンで待ってるから……」


バタン……


初等部の寮を抜け出し、高等部の寮に再び戻った『プリンセス・ミカン』は
はち切れんばかりの勢いで…。


「やったぁ〜〜〜〜!!!!」

「遂に……遂に、蜜柑を誘い出すのに成功したぞ!!」

「後は、夜の8時になるのを待つばかりだな!!皆川!!」


既に宴会モードになり、『プリンセス・ミカン』は浮かれていた。


「……前々から怪しいと睨んでたけど、やはりね……」


初等部のトリプルの部屋にいる蜜柑の親友・今井 蛍は浮かれ気分でいる
『プリンセス・ミカン』が映っている男子のデータを1人ずつインプット開始した。
蜜柑のファンクラブがある噂を耳にした蛍は犯人を特定する為に蜜柑の部屋に
移動も出来る超小型カメラをセットし、悪の権化である親玉を特定する作戦に出たのだ。
皆川と言う男は、表向きでは『規律を乱すのは御法度だと言い張っている風紀委員』だが
その実態は蜜柑に付きまとう害虫以外なにものでもない最低男なのだ。
しかも、皆川の部屋には壁一面に蜜柑の写真だけが貼られていた。
それも、本人の許可無しに撮られたものばかりだ。
普通の女子がこの光景を目の当たりにしたら気持ち悪くてたまらないだろう。

新年まであと4時間に迫り、蜜柑は急いでセントラルタウンに向かい
皆川達と落ち合う場所に走った。


「蜜柑〜!!」

「あっ、先輩!!来るのに遅れてすみません!!」

「いいんだよ。俺達が早すぎただけだから」

「その店って、どこなんですか?」

「ここだよ」


児玉の指さした場所は、純和風の佇まいをした建物だった。


「ここ……?」

「そうだよ」

「ここで、新年を迎えるんですか??」

「蜜柑。遠慮しないで入って」

「皆川様とそのご一行ですね。どうぞ、桜の間へ…」


店員が蜜柑と皆川達をお出迎えをし、豪華な桜の間へと通された。


「蜜柑。明日は元旦なんだから、君に相応しいプレゼントがあるんだけど…」

「えぇ!?プレゼント!!皆川先輩、ありがとう!!」


突然のプレゼントに蜜柑は嬉しくなり、皆川に抱きついた。
その光景を見た椎野達はどす黒いオーラを流したが、浮かれ気分の皆川は
これに気づくはずがない。



数分後……


「あの〜……、皆川先輩。こんな高価な着物を何処で買ったんですか?」

「「「「!!」」」」


椎野達の前に現れたのは、時代劇に出てきそうな遊廓の女郎の姿をした蜜柑がいた。
桃色の色目に山桜の柄が蜜柑の美しさを引き出し、前に結んだ帯と口の周りに塗られた
紅が妖艶さが込められており、誰もがこの姿を見て顔を真っ赤にしない者がいなかった。


「大丈夫だよ。俺のアリスは描いた絵が実体化するものなんだ。だから、元手はタダなんだよ」
 蜜柑。俺達と一緒にカウントダウンをしよう!!」

「へっ?」

皆川は鼻の下を思いっきり伸ばし、蜜柑の腕を強く握りしめた。


「……残念だが、テメェらのカウントダウンは、あの世行きだ」

「誰だ!?偉そうに言う野郎は」


ガラッ……!!


廊下から殺意が込められているような低い声に皆川を勢いよく襖を開けた。
その先にいたのは……!!


「ふ〜〜〜ん……、害虫の親玉がどんな奴かと思ってたが、こんなくだらねぇ男だったとはなぁ」

「「「おっ……お前は!!」」」(冷や汗)

「「日向 棗!!」」

「棗!?何であんたがここに!?」

「……んなこたぁ、どうでもいいんだよ」


グイッ!!


棗は蜜柑の腕を引っ張り、抱きしめた。


「!!」


突然の行為に蜜柑は頬を真っ赤に染め、そのまま俯いた。


「日向 棗!!馴れ馴れしく、蜜柑に抱きつくな!!」

「人のものを取り上げるなんて……お前は一体、どういう教育受けたんだ!?」

「それで説教のつもりか…?」

「「!?」」


棗の赤い瞳による鋭い睨みに皆川と椎野の2人は凍りついた。


「お前らのような下等な野郎なんかに説教される程、俺は落ちちゃいねぇつもりだが……。
 それでもまだ、文句あんのか!?」


いつの間にか、棗の放った火のアリスパワーで皆川達の身体や髪に燃え移った。


「うぎゃあぁぁぁぁ!!!!」

「「「「あちちちちちィ……!!!!」」」」

「「「「「水ぅぅぅぅ!!!!」」」」」


皆川達は何とも情けない大声を出して部屋を飛び出していった。
一方、部屋に残っていたのは蜜柑と棗の2人だけだった。


「……おい」

「えっ!?な、何やん!?」

「その着物はどうした!?」

「こ、これは……その、皆川先輩は描いた絵を実体化させるアリスの持ち主で、その……!!」


棗のただならぬ雰囲気を感じた蜜柑は、しどろもどろに話をする。
しかし、棗はそんな事は、もうどうでもよかった。
都合が良いか否かわからないが、隣の部屋に布団が用意してあったので
棗は蜜柑を抱きかかえ、そのまま布団の上に降ろし、逃げられないように覆い被さった。


「棗……ッ!離して……!!」

「駄目Vv年末の大ボーナスを目の前にして、頂かねぇ訳ねぇだろ」


ニヤリと怪しげな笑みを浮かべ、棗は最高のボーナスを手中に収めた。




一方、皆川達は………


「ちきしょ〜……。日向 棗の野郎……!
 何の躊躇もなくアリスを使って俺達を追い出しやがって……」

「今年最後のミッションも失敗に終わってしまいましたね」


高等部の寮に逃げ込み、火傷の治療を行っていた。
そこへ、1人の女子が皆川の部屋の扉をノックし、入って来た。


「皆川君。神野先生が生活指導室へ来いと言付かって来たんだけど……。
 それと、椎野君達も……」

「神野先生が!?……分かったよ、すぐ行く」




アリス学園内にある生活指導室に行くと、既に神野が待ちかまえていた。
誰が見ても分かる程、ご立腹のようだ。


「神野先生。何の御用でしょうか?」

「……皆川。『規律を乱す事は許さないと』いつも言っている風紀委員のお前が
 こともあろうに 女子生徒の盗撮をしていたとはな……!」

「盗撮!?何の事でございますか?僕はそのような事を行っては……」

「言い逃れは出来ませんよ」


ドアを開けて蛍が生活指導室に入って来た。


「これをご覧ください」


1本のビデオテープをデッキの中に入れ、再生ボタンを押した。


『皆川先輩!!蜜柑ちゃんの風呂上がりの写真が撮れました!!』

『でかしたぞ宍戸。写真の現像が完了したらファンクラブによるオークションに
 出品すれば高く売れるだろうな』

『オークションに出品しない写真はどうするんですか?』

『写真集にして、ファンクラブの会員に配布しとけ』


皆川達は顔を真っ青にし、冷や汗まみれになっていた。
まさか、自分達の行った行為が目の前にいる蛍の手によって見透かされ
言い逃れの余地がない証拠の映像テープを見せられているのだから。
神野も最初は半信半疑であったが、この映像のテープが決め手となり
学園がマークしている要注意の生徒ではあるが
蜜柑が男子生徒の手によって知らぬうちに盗撮の被害にあっていると言う事を認めた。


「それでは、神野先生。私はこれで失礼します……」


皆川達に冷たく踵を返した蛍は生活指導室を後にした。
時計の針が夜中である0時(元旦である1月1日)を迎えた。
それと同時に生活指導室に特大級の雷が落ち、人知を越える程のお灸を据えられた。
尚、皆川達を始めとする『プリンセス・ミカン』の会員の男子生徒達は神野の手によって
星階級は大きく格下げされた事は言うまでもない。




「これに懲りて2度と蜜柑に近づくな。
 私の出会った生涯最悪の最低男!!」 by.蛍




終わり

後書き

学園アリスの小説の処女作である「年末のボーナス」ですが、手直しして再アップしました。
さすがに、8人は多すぎたので執行部のみのメンバーにしました。
流架を出せなくて申し訳なかったと反省しています…。(汗)
この小説を書いていた頃は、黒流架モードにした事がありませんでしたので…。

2005.9.4