++天使の皮を被った悪魔++



初等部B組の教室に、この世の人知を越えるんじゃないかと思わせる悪魔がやって来た。


「蜜柑姉ちゃ〜〜ん



初等部A組の生徒と思わせるような年頃の少年が、真っ先に蜜柑に抱きついては頬擦りまでしてきた。
年下だからとは言え、「いくら何でもここまでやるか!?」と思わせるぐらい
B組の女ボスである蛍、男ボスの棗、そして流架に対し、その光景を目の当たりにさせるかのように見せつける。
不快指数を逆撫でするかのように……。


「やだぁっ!!そんなに擦り寄らなくても…//////」

「だってぇ〜……蜜柑姉ちゃんとこうしたくてたまらないんだもん〜〜……」


少年にここまで懐かれるとは思っていなかったので蜜柑は嬉しくて堪らないようだ。
そんな光景を快く思っていないのはやはり……


(この糞ガキ…!!気持ち悪い猫なで声を出しては、蜜柑に擦り寄ってんじゃないわよ!!)

     
こ   こ
(何で、アリス学園は下半身丸出しの野郎しかいねぇんだ!?)

(コアラどころか、寄生虫だな……)


超大型バカン砲を握りしめている蛍。
バキボキッ…と音を鳴らしながら拳を握りしめているブラックモード全快の棗。
肉食獣を呼ぶ為の笛を吹こうかなぁ…と考えている流架の姿にB組のクラスメイト達は教室の隅に下がっていく。


「ちょっと……ボクゥ〜??そろそろ授業が始まるから、さっさと私の蜜柑から
 離れてくれないかしらね〜……今すぐに!!!!」


露骨に「蜜柑から離れろ」と少年に告げる蛍。


「何でよ?いいじゃん、別に!誰にも迷惑かけているわけじゃないんだし」

「今の今まで、かけまくってたろーが」


棗が強引に蜜柑の腕を引き、少年から引き離す。
少年のその態度は、反省の「は」の一文字の欠片すらない。
それどころか、棗に対し……


「じゃあ、何?年下の人間は年上の人間の命令に、何にでも従わなきゃいけないの?
 死ねって言ったら、死ななきゃいけないの?殺せって言われたら、殺さなきゃいけないの??
 そんなくだらない決まり、誰がいつ何時何分何十秒決めたの???
 初等部唯一の幹部生がどんな奴かと思ってたのに、なぁ〜んだ……こんなつまんない男とはねぇ…」


マシンガンと思わせるような毒舌弾を吐きまくる少年。
火山噴火寸前に陥った棗は少年の胸倉を掴んだ。


「な、棗っ!?」

「よせ…っ!!要らぬ火の粉を浴びたくなければジッとしてろ!!」


相手はまだ5歳の男の子だ。
蜜柑は止めようとするが、本田(遠隔操作)君がアリスで蜜柑を引き寄せる。
棗の怒りの火の粉が蜜柑に飛び散らないようにと考慮し、遠隔操作の能力を使ったのだ。


「……言いたい事はそれだけか?糞ガキ……。
 集中治療室のベッドの上に寝かされたくなかったら、ガタガタガタガタ屁理屈こねてねぇで
 さっさと、ここから出て行けって言ってんだよ……(怒)」

「幼児虐待の罪に問われたいのなら勝手にすればぁ?」

……この糞ガキィィィッ!!!!


棗の鉄拳が少年に炸裂しようとした。


バキィ………!!


しかし、鉄拳によってすっ飛ばされたのは少年ではなく……


「蜜柑ちゃん!!」


蜜柑だった。
少年を庇い、棗の鉄拳を頬に食らってしまった蜜柑は教室の隅まで吹っ飛んだ。
頬が酷く腫れ上がり、蜜柑は自力で起き上がろうとする気配を見せない。


「蜜柑!!」

「佐倉!!」

「蜜柑ちゃん!!しっかりして!!」

「大変!!血を流してるわ!!」

「早く、蜜柑ちゃんを保健室に!!」


蛍、流架、野乃子、アンナ、委員長が蜜柑の側に駆け寄り、急いで応急処置をさせようと指示を出す。
一方、棗は本気で蜜柑を鉄拳で殴ってしまった事で硬直し、身動きとれずにいた。


「……自分で自分の首を絞めるなんて……馬鹿だねぇ……」


少年は、嘲笑うかのように教室から出て行った。


******


夕方になり、初等部の校舎に人影が見あたらない。
保健室には未だに目を覚まさない蜜柑と、側でずっと付き添っている棗の姿があった。
目が覚めないのも無理もなかった。
あの鉄拳をまともに受けたのだから。
棗の赤い瞳からは涙が止めどなく溢れ出ている。
あの少年に対し、悔しさと憎しみとやるせなせがごっちゃになって
どうしたらいいのか分からずにいた。


「……棗」

「日向君」


流架と蛍が保健室に入って来た。


「あの糞ガキなんだけど……調べた結果……」

「あいつはA組の子なんかじゃないよ……」

「……気休め言うな。何にしろ、俺がこいつを殴った事は覆しようのない事実なんだから」

「だったら……本当の糞ガキに討ち入りを果たせばいいじゃない」

「?」


クスッと怪しげに笑う蛍の言葉の意味がわからない棗。


「A組の担任に聞いたんだけど、そんな子供はいないって事がわかったんだよ」

「見た目は子供で中身は大人って事よ」

「それは!?」


蛍が手にしていたのは【ガリバー飴】だ。
つまり、誰かがこれを利用して5歳の男の子に若返り、蜜柑に近づいたのだ。


「どうする日向君。私と流架ぴょんは、(蜜柑の為に)これから討ち入りを果たしにいくんだけど?」

「相手が本当の5歳児でないんだったら、遠慮無く殺れるんだろ?」


何て事を言うんだ!?流架!!


「……行くに決まってんだろ!!!!」


蛍には(邪悪な)女神、流架には魔神、そして…棗には鬼神が乗り移った。
その光景は三闘神と呼ぶに相応しいだろう。


******


高等部寮

MANABU MINAGAWA


「お前らにも見せてやりたかったよ。あの日向 棗の無様な醜態を!!」


蜜柑のファンクラブである【プリンセス・ミカン】の会長・皆川の部屋に
副会長・椎野、書記・功刀&児玉、会計・山岸が馬鹿わら……いや、高笑いを響かせていた。


「自分で蜜柑をモロに殴ったんですから、嫌われるのも時間の問題ですね」

「素直に蜜柑から離れれば、こんな事にならずにすんだのに……」

「それにしても……考えましたね。ガリバー飴を使って蜜柑に擦り寄るなんて」

「皆川会長!!俺にも、使用させてくださいよ〜」


蜜柑に擦り寄ってきた5歳児の少年の正体は、皆川 学だったのだ。


バァン……!!!!


ドアが勢いよく蹴り破られた。
新たに発明した蛍印の【ビンタグローブ】を装備した蛍。
怒りの炎を身に纏ったブラックモード全快の棗。
百獣の王であるライオンに跨った流架が【プリンセス・ミカン】の前に現れる。


「……フ〜ン…そういうカラクリだったの……」

「……糞ガキの正体がテメェだったとはな……皆川 学……」

「……皆川先輩…神野のいる生活指導室へご招待致しますよ……」


あまりの3人の迫力に【プリンセス・ミカン】らは……


「ま、待て!!暴力は良くない!!話せばわかる!!」

「主犯は、会長なんですから……俺は一切関係ありません!!」

「お願いします!!生活指導室は勘弁してください!!」

「子供の悪戯なんですから、そんなにムキにならなくとも……!!」

「お願いでございます!!何卒、お慈悲を!!」


往生際が悪いかのように、逃げ出す体勢に入っている。


「……子供とは言え、悪い事をしたら徹底的にお仕置きをしないとね」

「……あら…流架ぴょん、良い事を言うじゃない」

「テ・メ・ェ・ら…!!覚悟は出来てるんだろうな!?」


棗は赤い瞳を燃やしながら拳を握りしめ、バキボキ…と音を鳴らした。
どうやら、この手で殴る気満々のようだ。




【プリンセス・ミカン】らが、棗によって思いきり殴られています。暫くお待ちください。
この小説をお読みの皆様、このように殴る蹴るの暴行を軽々しく行ってはいけません。




「それじゃ、【キリンカー】。この大荷物を神野のいる生活指導室まで運んでって頂戴ね」

「嫌だぁぁぁ〜〜〜………」

「神野の雷だけは勘弁してください〜〜〜………」


蛍は神野のいる生活指導室へ連行されるのを嫌がる【プリンセス・ミカン】らを完全に無視し
問答無用でキリンカーで運送を開始した。




保健室に戻った蛍達は、蜜柑が目を覚まさないうちに忘却香の匂いを少しだけ嗅がせ
昼間の出来事の記憶を消去した。
昼間の出来事は蜜柑にとって、忘れた方が良いと思ったからだ。
目を覚ました蜜柑に安心した3人は、蜜柑を連れて初等部校舎を後にし
夕暮れの中、寮へと帰って行った……。




終わり

後書き

ガリバー飴で、学を5歳児にさせて蜜柑に擦り寄らせるのは反則だったかな?

棗:「大いにありまくりだ!!」
蛍:「次の小説でプリンセス・ミカンの奴らにガリバー飴を使用したストーリー書いたら只じゃおかないわよ」
流架:「勿論、書いたりしないよね?」(怪しげな笑みを込めて)

お〜〜……怖っ!!

それでは!!

2005.9.10