++椎野 大介日記++



1月9日 晴れ

冬休みが終わり、3学期を迎えた。

「椎野!!椎野はいるか!?」

「…何だよ、学?ドタバタ廊下を走っていたら神野に雷を落とされるぞ」

「そんな事はどうだっていい。これを見ろ!!」


蜜柑ファンクラブである【プリンセス・ミカン】会長の皆川 学が1枚のプリントを俺に見せてきた。
どうやら、学園内行事のお知らせによるものだ。
そのプリントに書かれている内容は、毎年1月に行われる『持久走』のようだ。


「…持久走のお知らせじゃないか…馬鹿馬鹿しい」

「違う!!その持久走で1位を獲ったら、豪華な賞品が貰えるんだよ!!」


持久走で1位を獲得した者には、優勝トロフィーと
セントラルタウンに新装開店した温泉テーマパーク 6泊7日のペア無料招待券の贈呈か…。
その招待券を手に入れて、蜜柑と楽しい2人きりを手に入れるつもりなんだな。
何で俺は、【プリンセス・ミカン】副会長に就任してしまったんだろうと疑問を抱いた時もあった。


「椎野!!功刀(くぬぎ)と児玉と山岸を呼べ!!初等部B組に行くぞ!!」

「…はいはい」


曲がりなりにも(?)高3なんだから、蜜柑の先輩としての
威厳の欠片の1つぐらいは、あっても良いんじゃないかと考えてるのは俺だけだろうか…?


******


初等部B組


「蜜柑〜〜!!」

「あっ、皆川先輩!」


学が背後から思いきり蜜柑に抱きついた。
普通の女の子ならこの場で突き放すだろうが、蜜柑は自分を抱きしめてくれる学に嬉しそうに笑う。
その光景を快く思っていないのはご存じ、蜜柑の親友である今井 蛍だ。


「…皆川先輩、今日は蜜柑に何の用があって来たんですか?」


今井 蛍の背中に、悪魔の羽が生えている幻が見えた。
俺だけでなく、功刀と児玉と山岸にも見えていたに違いない。
只1人、学だけを除いて…。


「蜜柑〜……アリス学園恒例の持久走に参加するの?」


学が猫撫で声で持久走に出るか否か尋ねてきた。
良い歳こいて恥ずかしくないのだろうか…。


「そんなくだらない事の為に蜜柑のところに来たんですか?
 持久走は全員参加なんですから、そんな野暮な事を聞きにくるなんて
 【プリンセス・ミカン】って、よっぽど暇人なんですね…」


クスッ…と、嘲笑う今井 蛍。
その横では蜜柑が心配そうに割って入ろうとする。
今井 蛍がトドメの一言を言う。


「…言っときますけど、蜜柑と温泉に行くのはこの私ですからそのつもりで…」

「蛍ぅ〜!!やっぱり、蛍大好きやぁ〜〜〜!!」


今井 蛍がこれ見よがしに蜜柑を抱きしめる。
2人はアリス学園に来る以前から親友だと言う情報はあったけど…。


「…女同士で温泉に行ったって楽しくないだろ?
 蜜柑、温泉にはやっぱり男女で行くのが1番だよね?その暁には、この俺と……」

「皆川先輩??」


学が蜜柑の腕を引き、思いきり手を握った。


ドカッ!!!!


「…新学期から、土足で此処の敷居を跨いでんじゃねぇよ(怒)」


【プリンセス・ミカン】の天敵である日向 棗が学を蹴り飛ばした。
かなりご立腹のようだ。
蜜柑の手を握りしめた事が気に食わなかったのだろう。


「日向 棗!!目上の人に対して、蹴りを入れやがって…!!少しは足癖を直せ!!」

「…なら、気配ぐらい察しろ」


相変わらず、憎たらしい糞ガキだ。
蜜柑のパートナーがよりによって、日向 棗だなんて今でも信じたくない。


「皆川先輩、大丈夫ですか?おでこから血が出てますよ!!」

「あっ……」

「ウチが今、治してあげます。動かないでください」


蜜柑がそう言って、学の額から出た血をペロリと舐めた。
この光景に皆が絶句した。


「こうしておけば、傷口から細菌が入らないと思いますから」

「ありがとう、蜜柑。嬉しいよ…」


学が嬉しそうに浸っているのと対照的に、日向 棗は眉間に皺を寄せ


(……アイツ……!!ぜってぇ、許さねぇ……!!!!)


ワナワナと怒りに震え、ギリッと歯をきしらせた。


―――グイッ!!!!


「ふわあぁぁぁっ!!?」


蜜柑が突然、腕を掴まれた。
その先にいたのは勿論、日向 棗だ。


「……おい、ブス。持久走で1位を獲った奴は、副賞として好きな奴と温泉に行けるんだよな?」
「そ、そうやけど…」
「じゃあ、俺様を選べ」
「な、何でや!?ウチは蛍と一緒に行く約束を…!!」
「テメェに拒否権は、ねぇんだよ…。」


蜜柑をお姫様抱っこで抱きかかえ、そのまま持ち帰る日向 棗。
またしても日向 棗に蜜柑を奪われてしまい、学は高等部寮の自分の部屋で泣き崩れた。
持久走の当日…優勝したのは日向 棗だった。
温泉に誘った相手は勿論、蜜柑だ。
優勝トロフィーと副賞の温泉無料招待券。
そして…蜜柑を手に入れた日向 棗は、俺達を嘲笑うかのようにニヤリと笑っていた。



【プリンセス・ミカン】副会長 椎野 大介著




終わり

後書き

【プリンセス・ミカン】副会長 椎野 大介視点による小説は如何でした?
この小説を見る限りですと、どっちが会長か副会長かわからないかもしれませんね。
蜜柑には選択権がないような真似をさせて申し訳ないと思っています。

蜜柑:「まったくや!!蛍と行きたかったのに!!」
棗:「ほほぅ〜?俺様とペアが、そんなに不服か?」
蜜柑:「い…いえっ!!滅相もありません!!(滝汗)」
棗:「問答無用!お仕置きだ!!」
蜜柑:「いやぁ〜!!」

2005.9.10