++闇夜の狐夜叉++


                まんおく
徳川家の治める江戸800万石の城下町…。
商売繁盛に精を出す商人や曲がった事が常に大嫌いで試行錯誤を繰り返し、創作に命をかける職人。
江戸の城下町の治安を守る町火消しや旗本などと言った
それぞれの人々が全うに人生を歩んでいる。


しかし、人々の中には「人」と言う道から外れた仕事をしている者もいた。


昼間は、あんなに賑やかだった城下町も夜になると厳重に戸締まりをしている家ばかりで
人っ子1人いない不気味な静寂に包まれた。



その1時間後…。


「盗人だーーーーッ!!!!」


高々と役人を呼び集める笛を鳴らす音が江戸の城下町に響き渡る。


「それにしても…しつこい役人だな…」


黒装束を纏い、黒猫の面を被った2人組が千両箱を担ぎながら屋根から屋根へと飛び移る。


「あの噂って本当なのかな…」

「何が?」

「盗人に対して慈悲を出さないと言う夜叉がいるの…」

「そんなの噂に決まってるだろ…」


馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに、予め止めてあった小舟に乗り込もうと屋根から波止場へ移動したが…


「!?」

「小舟がなくなってる?何で!?」


止めてあったはずの小舟に影もかたちもなくなっていた。
予想外の出来事に黒猫の面を被った2人組は愕然とする。


ザッ……


背後に気配を感じ、振り返ると白い着物に紫色の括り袴。
そして白い狐の面を被った者が鎖鎌を携えて現れた…。


「…何だテメェは?」

「お前が小舟に細工をしかけたのか?」


退路を奪われた事で黒猫の面を被った2人組は、短刀を取り出して身構える。
それに対して、白い狐の面を被っている者は微動だにしない。


「同業の者だか知らねぇが邪魔をするなら容赦しねぇぞ!!」

「俺達『黒猫盗賊団』に喧嘩を売った事を後悔するんだな!!」


黒猫の面を被った2人組…『黒猫盗賊団』が攻撃に入るが…


******


「おい。交代だ」

「おう」


場所は代わって南町奉行所。
北町奉行所と併せて江戸の治安を預かる施設が2つある。
その内の1つである南町の奉行所に…飛脚がやって来た。


「夜分遅くに申し訳ありません。南町奉行所宛てに荷物を届けに来ました〜」

「荷物〜?そんなもん頼んだ覚えはない」

「ですが…町奉行・鳴海様宛てですので…それじゃ!!」


飛脚は荷車を引いて何処かへと消えて行った。


「…どうすんだよ。これ…」

「どうもこうも…取り敢えず中身を改めよう」


やけに暴れ回る中身に気になりながらも荷造りしている縄を解いた。


「〜〜〜〜〜ッ!!!!」

「〜〜〜〜〜ッ!!!!」


中から、拘束された2人組の『黒猫盗賊団』が現れた。
『黒猫盗賊団』は日本中を騒がせている一流の窃盗団なのだ。
頭目である首領の正体すら未だ不明で、取り押さえるのに困難を極めていたのだが…。


「手紙が入ってます」

「読んで見ろ」

「はい。え〜〜〜と……

『盗人に生きる価値無し

              白狐』


******


「……江戸で盗みを働きにいった2人は、まだか…?」


廃屋となった古寺の中、江戸で盗みを働きにいった2人組とは表情が違った
不気味な黒猫の面を被った者が1人…。
面を被っていても分かるぐらい機嫌が悪いのが伺える。


「も…もう暫く…っ…もう暫くお待ちください!!」

「い、今に千両箱を大量に抱えて帰って来ます!!」


怒りを静めようと宥めるのが約2名。


「もしかして…あの2人…。
 噂で聞いた『あいつ』にやられちゃったりして〜」

「バッ…馬鹿!!機嫌の悪い首領の前で滅多な事を口走るな!!」

「申し訳ありません!!こいつは心臓に毛が生えていると言うか…その…っ…!!」


必死で首領に弁解する2人。


「『あいつ』って…誰の事だ?」

「同業者の間で知らない者はいないと言われている『狐夜叉』だよ。
 今まで何人もの窃盗団が江戸で盗みを働きに行ったんだけど
 『狐夜叉』はね…僕達、窃盗団には容赦なく痛み付けた挙げ句
 奉行所に連行して『窃盗団に生きる価値無し』と言う、『切り捨て御免』同然の手紙を残して行くんだよ。
 最終的には、もう2度と日本に戻れぬよう『島流し』にする手配りするのを生き甲斐としている…
 まさに冷酷無慈悲の夜叉って事さ…」


※「島流し」…罪を犯した人間を日本から八丈島へ連行する刑。


「噂によると…狐夜叉の正体は女らしいけどね…」


情報通である仲間から話を一部始終聞いた首領は静かに立ち上がる。


「な…棗さん!?何処へ行くんですか?」


黒猫盗賊団の首領=棗自ら行動開始する事は滅多にない。
その棗が何処へ行こうと言うのだろうか!?


「…江戸に行くぞ」

「「「「はあっ!?」」」」

「…お前らの耳は飾りか?江戸へ行くと言ったんだ」

「棗さん。気は確かですか!?
 狐夜叉に遭って、島流しにならなかった者はいないんですよ!!」

「死にに行くようなものです。我々が代わりに行きますから棗さんは此処で待機していてください!!」


狐夜叉の居る江戸へ向かおうとする棗に、手下達が大いに反対する。





「これは命令だ!!手下であるお前らが、俺の命令に口出しするな!!!!」

「「「「は…はい……(汗)」」」」


こうして…棗率いる『黒猫盗賊団』は闇夜を駆けながら狐夜叉の居る江戸へ向かった。
暗雲轟く江戸に『黒猫盗賊団』が迫るのだった。




第1話に続く




後書き

時代劇による連載パラレル小説を遂に書いちゃいました!!
見た目では「白狐同盟」に値する内容ですが
この話の蜜柑は左眼に眼帯しておりませんので ご安心を…。
情報通である黒猫盗賊団の手下の1人は、ご存じ「心読み君」です。
では、次回をお楽しみくださいね〜♪

2005.11.6