盗人なんて……"人間"なんかじゃない。

アレは"人"の皮を被った"悪魔"だ。

額に汗を流し、必死で働いて貯めた金を根こそぎ奪うだけに留まらず

自分の私欲を得る為なら平気で"人殺し"をやる"冷酷無慈悲"な奴らなんかに

情けをかける理由も無ければ、見逃してやる気など無い……。

盗人なんかに生きる価値が無い事をウチが思い知らせてやる……!!





++闇夜の狐夜叉++





「馬鹿野郎…ッ!!!!!!」


深夜の古寺の本堂の中で"ドフッ" "ドカッ"と痛々しい効果音が響き渡る。
白狐の手によって奉行所の牢から黒猫盗賊団の仲間2人に
首領である棗が手下の不甲斐なさに怒りの頂点に達し、殴る蹴るの暴行を行っていた…。


「もっ…申し訳ありません!!
 白狐1人しか居ませんでしたので、余裕で勝てると思ってたんですが…」

「そいつが、とんでもなく強い奴でしたので…その……っ!!」

「それで…千両箱1つですら土産として盗んでこれなかっただと…?
 そんな言い訳が通ると思ってんのか!!!!」

「「ひぃぃ……(涙)」」

「首領…そろそろ怒りを静めください。
 幸い、奉行所の連中は俺達の素性は知られてません。
 白狐とか言う厄介な奴が潜伏している江戸なんかとは、おさらばして違う町で盗みを働けば良いではありませんか」

「同感です。さ、首領…参りましょう……」

「……だれが、この江戸から逃げると言った?」


棗の思わぬ言葉に手下達が「はっ?」と言う。


「白狐の正体を暴いてからでも江戸を去るのは遅くねぇだろ?
 俺様をコケした礼もしてやりてぇしな…」

(((((棗さんがニヤリと笑ってる…!!!!!!)))))


こういう時の棗が1番怖い事を手下達は分かっていた。
何が何でも白狐の正体を暴くつもりだろう……。


******


夜が明け、朝1番に江戸の町の大店である廻船問屋"野田屋"の店が開いた。


「みなさん、おはようございます。
 今日も1日良い商いをするよう、しっかりお願いします」

「「「「「はい!!」」」」」


店の主である野田が荷物を蔵の中に運ぶよう指示を出す。
店で働いている人達は、野田の事を先生と呼ぶに値するほど一目信頼していた。


「おはようございます、野田屋さん。荷物を引き取りに来たんですが…」

「あ、はい。只今、荷車に積み出し致します」

「野田屋さん、知ってますか?」

「何がですか?」

「全国で盗みの幅を利かせている悪名高い黒猫盗賊団の手下2人が逃げ出したらしいんですよ。
 せっかく白狐様が御用にしたと言うのに…。
 黒猫盗賊団が江戸の町の何処かに潜んでいると思うと、安心して夜も眠れませんよ。
 一体、何時になったら黒猫盗賊団に怯える必要のない日になるんでしょうね…。

「弱気になっていけません。窃盗団は、その弱気に付け込んで盗みを働く者なんです。
 この世に悪が栄えた試しが無いと言う言葉を信じるのです」

「野田先生〜……」

「…あ、では…私は、これで……」


住み込み奉公人の美咲が野田先生を呼ぶ声を聞いた得意先の男は、自分の店へと帰って行った。


「黒猫盗賊団の手下が逃げ出した話…本当ですか?」

「あの人の顔色具合からすると奉行所の牢から脱獄した事は、ほぼ確実かもしれませんね…」

「この事、チビには……」

「伏せておいてください。
 これ以上、あの娘に死と隣り合わせの危険な行動をさせたくありませんので…」

「それでなくとも、じーさんが病の床に伏せってますからね…」


野田先生と美咲がチラッと目線を送った先に、栗色の柔らかい髪と茶金の瞳をした少女が
病の床に伏せった祖父の看病をしている。
この少女の名は――――蜜柑。
行くあてもない旅の途中、病によって倒れてしまった祖父に困り果てていた時に
野田屋に拾われ、住み込み奉公人として今日まで一生懸命生きてきたのだ。


「それじゃ、じいちゃん。ウチ、仕事に行くから…ちゃんと薬を飲んでおいてな…」

「蜜柑…野田屋さんに感謝しながら働く事を忘れるんじゃないぞ」

「はーい」


蜜柑は、元気のある返事をしながら部屋から出て行った。


******


「は〜あ……白狐が何処に潜んでいるのか探索しろと首領に命令されて町に出たのは良いが…。
 雲を掴むような話だぜ……(ため息)」


黒猫盗賊団の手下達は、江戸の城下町の中をトボトボした様子で歩いていた。


「お前、白狐と戦ったんだろ?特徴とか何か教えてくれよ」

「そんなの分かる訳無いだろ。白狐が現れたのは突然だったし…。
 気が付いた時には、グルグル巻きの状態だったから」

                               ほくろ
「それじゃあ…動かぬ証拠とか見てないのか?例えば…黒子とか…」

「そうだな〜……あっ!!」


何か心当たりがあるかのように思い出す。


「白狐の奴は、左肩と首筋の間に妙な痣があったんだ!」

「本当かよ!?…っで、どんな痣だ?」

「えぇ〜と…確か、こんな形だったような…」


手下の1人が紙に白狐の首筋にある痣の形を描き、それを仲間達に見せる。
描かれていた痣は、奇妙な三つ巴を象ったものだった。


「…これって…痣なのか??」

「こんな妙な形をした痣がある訳無いだろ」

「刺青の間違いなんじゃないの?」

「五月蝿いなあ!!とにかく、俺が見た物は其れなんだよ!!」
 現物を見た事も無いのに笑うんだったら、その絵を返せ!!!!」


手下達が言い争いをする途中、買い物から野田屋に帰る蜜柑とすれ違う。


「あ」

「何だよ?」

「さっきの女の子…首筋に、紙に描いてあったのと同じ痣があった」

「「「「えっ!!何処!!!!????」」」」

「もう、あっちへ行っちゃったよ」

「この馬鹿野郎!!何で止めなかったんだよ!!」

「だって、みんなが言い争いをしてたから…」

「じゃあ…せめて、その女の髪の色とか見てただろ?」

「うん。栗色の長い髪に、茶金色の瞳だった」

「よーし、白狐の正体を暴く手がかりが掴めただけでも上出来だ。
 そうと分かったら善は急げだ!!」


意気揚々とアジトにしている古寺の本堂へと引き返すが……


「誰が手ぶらで帰って来いと言った!!!!!!(大激怒)」


"ドフッ" "ドカッ"と言う効果音を立てながら手下達は棗に殴られたり蹴られたりした。


※殴る蹴るの暴行を実際にしてはいけません。


「い…いえっ…決して、手ぶらで帰って来たのではありません!!(滝汗)」

「じゃあ…何しに戻って来た!?(黒怒)」

「白狐には、首筋に特徴的な痣があるんです!!
 その特徴的な痣を持った女を、こいつが目撃したんです」

「白狐と思われる女の子はねー、栗色の長い髪に…茶金色の瞳をしてたー」

「どうです?有力な情報でしょ!?」

「…テメェらが、そこまで言うんだったら信じてやる。
 だが、その情報が真っ赤な嘘だったらテメェらの身体に岩を括り付けて
 海の底深く沈めるからな!!(大激怒)」


手下達の不甲斐なさの所為で、棗のご機嫌斜めさは頂点に達していた。
もう失敗は許されない……。
黒猫盗賊団に「2度目」や「次」と言う言葉は無いのだから…。




第2話に続く




2006.1.30