++エスケイプ〜脱出〜++


アリスは無理矢理 馬に乗せられてお城へと連れて行かれました。

「王子様がご帰還なされたぞ!開門〜!!」

見張りの用の高台にいた兵士の1人が、お城の正面門を開くよう開門合図を送りました。
ギギィ…と鈍い音を立てながら正面門が開きました。

「オラッ、着いたぞ。さっさと来い」
「いややっ!!ウチは、あんたの后なんかになる気はない!!」
「来るんだよ!!」

王子様はアリスを拘束している縄をグイッと引っ張り、そのままお城の中へ連れて行きました。


******


「これはこれは王子様…お帰りなさいませ…。そちらの娘は、どのような方なのですか?」

お城の玄関に入ると、兵士隊長と思われる男が王子様を出迎えました。

「こいつは、俺様の后となる女だ」
「后?お后候補ではなく?」
「…そうだ。俺様は、ようやくこの女の居場所を突き止め、ふん縛って連れて来た」
「…と王子様は、おっしゃられていますが…それは真でございますか?」
「全部、この嫌味キツネの妄想です(キッパリと)」

王子様のお后候補の女を何度も見た兵士隊長だが
王子様を露骨に嫌う女を見たのはお城に勤めて以来、初めてでしたので
兵士隊長は驚きを隠せませんでした。

「……(ムカッ)……そんなへらず口が叩けると思ってんのか!?」
「…いっ……!」
「まぁまぁ……王子様。お后様となるべき御方を邪険に扱ってはいけません。
 国王様にご報告をなさってください」
「ちっ……」

このままではアリスの身が危ないと思った兵士隊長が助け船を出すかのように
国王に結婚の報告をするよう促しました。


******


「君かい?棗君の妻になる娘って…」

アリスは、玉座に座っている国王のいる謁見の間に通されました。
露骨にフェロモンを撒き散らしているとしか思えない雰囲気が、第一印象でした。

「フンッ……この変態国王。
 俺様とこの女の結婚式を挙げる前にフェロモンを撒き散らしたら承知しねぇぞ!」
「そんな冷たい事言わないでよ〜……。仮にも僕は、この国の王だよ〜?」
「はっ?寝言は寝てからほざけ!!」
「…と言う訳で、棗君はアリスちゃんと結婚する気満々だけど……アリスちゃんは?」

棗は、この時を待っていました。
国中の女が花嫁候補としてお城に集まって来たのだから
当然アリスも『結婚させてください』と首を縦に振ると予想をしていました。
しかし…、アリスの口から出た言葉は―――――

「お断りします」
「「……は?」」
「ウチ……、この人とは結婚なんかしたくありません」

断りの返事でした。

「いくら王子様だからって…いきなりウチをふん縛って誘拐同然にお城に連れて行った挙げ句
 結婚しろやって…?ウチの意見を無視して勝手に話を進めて…。
 上辺だけによる愛のない結婚をさせられるぐらいなら、この場にてお断り申し上げます!!」
「俺様とは結婚出来ないと…?」
「あんたが何を言ったってウチの気持ちは変わらへん!
 ウチは、あんたなんかとは結婚したくない!!分かったらさっさとウチをお家に帰せ!!
 この嫌味キツネ!!」
「……(ブチッ…!!)……帰せだと…?
 せっかく手に入れた物を、そう簡単に手放してたまるか!!!!」
「へっ…?んっ!?ん…んんんぅ〜〜〜〜〜!!!!」

堪忍袋の緒が切れた棗は、アリスの顎をグイッと掴み、ピンク色の可愛らしい唇を奪いました。

「あらまぁ〜〜〜……」
「………(―_―;||||)」(汗)

その光景に、国王と兵士隊長を始めとする家来たちは、唖然とするしかありませんでした。

1時間にも及ぶかのような過激なキスに、アリスは気を失ってしまいました。
棗は、ニヤリと笑い……

「今のうちに、結婚式の準備を進めろ」
「はい。ですが…その…お后様となる御方は、その間どうなされるので?」
「逃げられないよう、俺様の部屋に寝かせろ」

「「承知しました」」

棗の命令を受けた、女家来2人はアリスを棗の寝室のベッドの上に寝かせに行きました。

「……これからが楽しみになりそうだ」

棗は、ニヤリと呟きながら謁見の間から出て行きました。

「国王様…本当に宜しいのですか?」
「えっ!?」
「『えっ!?』じゃ、ありません。あの娘にも、結婚する相手を選ぶ権利が
 あると思われるんですが…」
「君も見ただろう?あの棗君が、人前で接吻をするなんて未だかつてなかったじゃないか。
 こうなったらもう…棗君を止める事は不可能だよ」
「………」

謁見の間に残された国王と兵士隊長は、こんな会話をしていました。


******


深夜の2時になり、アリスはようやく目を覚ましました。
周囲を見渡すと、国王のいる謁見の間ではなく、棗の寝室のベッドの上にいました。
その隣には棗が眠ってました。

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

アリスは大声を出してしまいそうでしたが、何とか耐えました。
右手の薬指を見ると、豪華な指輪がはめられていました。

(この嫌味キツネ…!!気を失っている間に、こんな指輪をウチに押しつけおって!!)

何が何でも結婚をしようと企んでいる棗から逃れるには、只1つ…。

(脱走や!!!!)

アリスは、こっそりと部屋を抜け出しました。
外へ逃げ出す通路が何処かにあるはずだと思いながら…。
すると、男家来の1人がゴミ袋をダストシュートに放り込みました。

(よし…!!あそこから一気に外へ出られる!!)

男家来が向こうの方へ行ったのを確認すると、アリスはゴミ捨て場に直結している
ダストシュートの中に飛び込みました。
何とか、上手くしてゴミ捨て場からお城の非常口を使って城外へ出たアリスは
これからどうしたらいいのか考えました。

「うぅ〜〜…、あの嫌味キツネから逃げられたはいいけど…
 こんな服装じゃ、すぐ気づかれてしまう…」

アリスは、とりあえず城下町にある24時間営業している洋服店に入る事にしました。

「あの〜〜…すみません…」
「いらっしゃいませ。何か御用ですか?」
「…このドレスと指輪を売りたいんですが」
「えぇ〜〜〜!?こんな上質なドレスと豪華な指輪をですか!?
 ありがとうございます!!思いきり高く買い取らせて頂きます!!」
「…ありがとうございます。これとこれ…、あとはその黒い外套にバンダナ…。
 それと眼帯が欲しいんですが…」
「それでは…、試着室で着替えてください♪」

店の主人は豪華な品を引き取ることが出来て、ご機嫌でした。

「ありがとうございました〜♪」

アリスはツインテールの髪を、頭に縛っているバンダナの中に隠し、左眼に眼帯を装着しました。
黒い外套を羽織った姿で店内から出て行き、武器屋では鎖鎌を購入し、それを付属の革製の鞘に収めました。
ハイヒールの靴も丈夫な靴に買い換え、旅行用の革袋には食料や水、ドレスと指輪を買い取った際に
余ったお金の入った袋を詰めました。これならば棗の后には見えないだろう。


******


翌日


「…まだ見つからないのか?」
「そっ…それが…しらみ潰しに探しているのですが、お后様の姿がどこにも…!!」

誰が見ても分かるぐらい、棗の機嫌が最悪なのが露骨に伺えました。
目が覚めたら、隣で眠っていたはずのアリスの姿が何処にもなかったのです。
お城の家来たちは懸命に捜索をしているのですが、一方に報せが来ない事に
業を煮やした棗は遂に…。

「………っ!!!!」
「王子様!?どちらに行かれるのです!?」
「俺様が行って、あいつを連れ戻す!!ついて来るんじゃねぇぞ!!!!」

怒りを露わにしながら身なりを代えて城下町へと行きました。
すると…。
洋服店のウィンドウにアリスが着ていたドレスが飾られてました。

「おい!!!!このドレス、何処で手に入れたんだ!?」
「はっ…はい…。お客様と同じ歳ぐらいの娘さんが、こちらのドレスとこの指輪を
 お金に換えて欲しいと申し出ましたので…」

(ドレスならまだしも、婚約指輪までお金に換えやがったのか…!!)

棗の怒りの火山が噴火しました。

(絶対に、首に縄を括り付けてでもお城に連れ戻してやる…!!)

「それで!?その女はどっちへ行った!?」
「え…駅の方に行きました…」


駅…?
と言う事は、列車に乗っていったのか?


「あの時間帯でしたら駅に寝台列車が到着しますので、恐らく娘さんは寝台列車に乗車した
 可能性が高いと思われます。」

店長の話を聞いた棗は、悪戯心に火が付いたかのようにニヤリと笑いました。


******


ガタンゴトン……ッ!!


寝台特急列車の4等客室の一室の中で、アリスは座席兼ベッドの上で横になっていました。

「このまま上手く逃げ切れば、ウチは自由になれる…!!
 しかも、終点駅は『水の都』と言われているアクエリアや!!」


コンコン…ッ


「お客様、失礼します。1等客室のお客様が部屋に来るようにと言付かって参りました…」
「1等客室?1等客室と言ったら、ロイヤルスイートの部屋やないか!
 そんな豪華な部屋を貸し切っている奴がいるんか?」

車掌からの伝言を聞いたアリスは、1等客室に行きました。
ドアをノックし、客室の中に入る為にドアを開けました…。


グイッ…!!


と腕を引っ張られて、あっという間に客室に連れられてしまいました。

「……探したぞ。手こずらせやがって」
「!?」

聞き覚えのある声に、アリスは恐る恐る後ろを向きました。
1等客室を貸し切っていたのは棗でした。

「な…なつめ…?ど…どうして…こん…な……ところに……??」
「…言ったはずだ。そう簡単に手放さないと…」


バフッ……!!


棗は、そう言いながら自分の着ている服を脱ぎ捨てていき、アリスをベッドに押し倒しました。

「予定より早いが…『水の都・アクエリアス』で、ハネムーンと行きますか…」
「何で、この体勢にならないといけないんですか…(涙)」
「せっかくのハネムーンなんだ…存分に可愛がってやる…」


注:めくるめく、桃色の世界に染まっています。
  良い子は、その意味がなんかのかは親なんかに聞いてはいけません。


こうしてアリスのエスケイプは失敗に終わりました。
棗とハネムーン(?)を終えた後、アリスは彼と結婚しましたとさ。



ハッピーエンド??
終わり

後書き

やっと完成しました…。
我ながら、ここまで一気に仕上げられたのが奇跡としか言いようがないぐらいです。
どんなにアリス(蜜柑)が嫌がろうとも、棗からは逃げられないと言うストーリーでした。
何故、寝台特急列車の中に棗がいたのかと言いますと、彼は情報を収集して
先回りをし、アリスが乗っている列車に追いついたのです。(根性としか言いようがないですよね)
それでは、箕田 美夏様…。
約束通り、小説を寄贈致します。


配役

アリス 蜜柑
王子様
  ・
国王 鳴海先生
兵士隊長 遠隔操作君
女家来1 野乃子
女家来2 アンナ

2005.9.15