++竹取物語―出会い編―++



青い真珠と言われている地球と言う星を回り続けている月にも人間が住んでおり
京の都と呼ばれる立派な屋敷を中心とした都がありました。
その都の御座敷の間で、従者と共に芸者を取り囲んでのドンチャン騒ぎをしていました。
しかし…

「おい!!俺は、もう芸者に酌をしてもらうのは飽きた!!」

馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに黒髪の少年が立ち上がり、宮殿へ帰る支度を始める。

「な…棗様!!」
「ですが…此処にいる芸者の娘共は都で1、2を争うぐらい美しい娘で御座います」

棗と呼ばれた黒髪の少年は月の都を治める若き帝だったのです。

「俺の好みじゃねぇ」

…と、吐き捨てるような台詞を言い牛車へと戻って行きました。

棗の我が儘っぷりに従者は困り果てていました。
帝として何不自由なく育った所為か、我が儘ばかり言うようになったのです。
その我が儘に振り回されるのは、いつも従者でした。
この有様で国を治める立場になってしまったら月の都が滅亡してしまう
カウントダウンが従者の間で始まっていました。











場所は変わって…、都より遠く離れた山奥の中に1軒だけ家が建っていました。
家の中には病の床に伏せっている老人と、もう1人…。

「じいちゃん!!薬草取ってきたで」
「お帰り蜜柑…、ワシの身体がもう少しまともであれば
 お前に苦労ばかりかけないのだが…」

蜜柑と呼ばれた娘は、月の都では珍しいと言われている栗色の綺麗な髪をしていました。
彼女は薬草取りをしており、都の医者に取ってきた薬草を売って生計を立てているのです。

「それは言わない約束やろ。薬草を磨り潰して煎じて飲ませて上げるから待ってて!!」

貧しいばかりに、蜜柑に綺麗な着物を1着すら買う事の出来ない
自分の至らなさに蜜柑の祖父は悔やんでました。

「じゃあウチは、取ってきた薬草を都のお医者様に売りに行ってくるわ!!」
「暗くならない内に、帰って来るんじゃぞ…」
 
こうして蜜柑は、都の医者に薬草を売りに山を下りていきました。



都の入口である羅天門をくぐり抜けた先は、一流の貴族が住むに相応しい華やかな街でした。
しかし、蜜柑はそんな事はどうでも良かったのです。
裕福な一族の娘に生まれてこなくても、祖父と一緒に暮らせれば…。

「いつもいつも良い薬草を売りに来てくれて助かります。
 これは今月の薬草代でございます。どうぞ、お納めください…」

都の医者の御殿に着いた蜜柑は、今まで取ってきた薬草を医者に見せました。
医者は、薬草を一通りお納めすると蜜柑に薬草の代金を支払いました。

「いえ…こちらこそ、今年は日照り続きにならずにすみましたので…」
「いつも大変ではないかね?山奥から都まで往復するのに…」
「大自然に囲まれた方が好きですから…それでは……」

蜜柑は、そう言うと籠を背負い込み、御殿を後にしました。

「…まったく、正直でまっすぐに生きている
 あの娘が貧しい暮らしをしている所為で、居たたまれなくて
 ついつい薬草の代金を多めに出してしまうんですよね…」

ため息をつきながら薬草を保管庫へ保存しようとする医者ですが…

「おい」
「…っ…これはこれは棗様!!今日は、如何なされましたか!?」
「あの娘は誰なんだ!?」

この医者は都で1番の医者であり、帝である棗専属の医者だったのです。

「いつも私に良い薬草を売りに来てくださる薬草売りの娘でございまして
 名は『蜜柑』と申します…。あんな可愛らしい娘さんに着物でも着せたら
 何処の貴族と間違えられてもおかしくないのですがね…」
「………(ニヤリ)」

医者の言う事が本当かどうか確かめようと、棗の顔が途端に意地悪風な笑みに変わりました。
棗の良からぬ悪戯心に火が付いてしまったのです。


ドンドンドン…ッ!!


「どなたですか?」

蜜柑が玄関の戸を開けると、見事な牛車が目の前に立っていました。

「あの…来る場所を間違えていらっしゃるのではないですか…?」

それもそのはず。
都の牛車と言えば、一流貴族のみが乗る事を許されている乗り物である。
一流の貴族が、こんな山奥に来るのは絶対に有り得ないのです。

「いえ…間違ってはおりません。宮殿へ参りましょう」
「へ…?えええぇぇぇぇ!!??」

蜜柑は半ば強引に牛車へと押し込まれ、そのまま山から下ろされてしまいました。
「ウチをどうする気や〜!?家に帰してぇ〜〜!!」と泣き叫ぶ蜜柑に
麻酔薬を染みこませた布を口に宛いました。
蜜柑に睡魔が襲い、1分も経たない内に深い眠りに就きました。











「んっ……」

数分後、蜜柑は目を覚ましました。
それまでは良かったのですが…。

「なっ…何で!?何でウチ、こんな豪華な着物を着てるんや!?」

それは蜜柑が普段着慣れたものではなく、正真正銘一流の貴族でなければ
手の届かない豪華な着物でした。しかも、栗色の髪も綺麗に下ろされ
姫と間違われてしまうぐらい、見違えていたのです。

「目が覚めたか…」

後ろを向くと、棗が何時の間にか立っていました。

「ア…アンタ誰っ!?それに此処は何処や!?」
「どこって月の宮殿だけど…」
「はぁっ!?月の宮殿ゆうたら、帝の住む御殿やないか!!」
「…その帝と言うのが俺なんだけど…」

その台詞を聞いた途端、時間が止まったかのような感覚に陥ってしまいましたが…

「えええええぇぇぇぇっ!!!!!!」

蜜柑の絶叫は月の宮殿どころか、都中聞こえるぐらい響かせました。

「…と言う訳で…」
「?」
「酌の相手をしろ」
「…はい?」
「何度も同じ事を言わせるな。酌をしろと言ってんだよ」

帝の命令であれば、素直に酌の相手をしてくれるだろうと思っていた棗ですが…

「嫌や!!ウチを誘拐同然に此処へ連れてきた挙げ句、その上…酌の相手をしろやと!?
 ふざけるのも大概にせぇや!!(怒)」
「俺は帝だ。女が俺の命令に従うのは至極当然だろ?」
「……っ!!」

素直に命令に従うだろうと思っていた棗だが、酌をしてくれるどころか
思いきり平手打ちされてしまいました。
「アンタの顔なんか2度と見たくない。大嫌い…っ!!」と吐き捨てるように言い
泣きながら部屋から出て行きました。

「………」

自分の思い通りにならなかったのは、これが初めてでした。
棗は、ここで引き下がるほど甘い男ではありませんでした。
この出来事は、序章にすぎなかったのです。











それから10年の月日が経ち、蜜柑は16歳の美しい娘に成長しました。
10年と言う歳月の間に最愛の祖父を亡くし、それ以来ずっと蜜柑1人で山奥にある家に住んでいました。
祖父が亡くなったと言う噂を聞いた棗は、今がチャンスだと思い
蜜柑に言い寄るようになってきたのです。

「まったく…何を考えてるんや…。
『正室としてお前を妻として迎え入れたい』やと!?お断りに決まってるやろ!!」

棗からの恋文を暖炉の火で燃やしてしまいました。


『三つ子の魂 百まで』と言うことわざ通り、棗は何度も蜜柑の家へ訪れたのです。


我慢が出来なくなった蜜柑は、誰にも干渉されたくない世界へ逃げてしまいました。
その逃げた先が青い真珠と呼ばれている地球だったのです。


しかし、地球でも棗が執念深く追ってくるのを知らずにいる蜜柑でした…。




終わり

後書き

更蓮 雫さんのリクエストである「竹取物語」に登場する
月の帝・棗との出会い編をアップしました。
かなり無茶苦茶な内容になってしまいました…。
棗を我が儘で無神経な奴にしてしまい、大変申し訳ありません…。
雫さんのみ、この小説のお持ち帰りを許可します。

2005.10.4