++花咲か娘++



昔々…あるところに最愛の祖父を亡くしたばかりの正直な娘がいました。
独り暮らしの寂しさを紛らわす為に、娘の親友である蛍がペンギーと言う
絡繰り仕掛けの人形をプレゼントしてくれました。
独り暮らしをしていた娘――――蜜柑は大層喜んだそうな。


ある日、蜜柑は畑を耕していました。


「ペーペー……」

「どうしたん?ペンギー」


ペンギーは「ここほれ」と言わんばかりに、着物の袖を引っ張りました。
蜜柑は畑の仕事を一旦止め、地面を掘りました。
すると、ペンギーの示す場所を掘ると古いつづらが出てきました。
つづらを蓋を開けた途端、黄金の光りが放ちました。
中身は何と…大判小判がザクザクと大量に入っていたのです。
祖父の残してくれた畑から、宝を掘り当てるとは思ってもみませんでしたので夢のようでした。
蜜柑は、掘り当てた大判小判を自分だけでなく、同じ村に住む貧しい人たちに分け与えました。
小判を貰った村の衆は大喜びです。

その光景を見ていた蜜柑の家の隣に住んでいる娘のスミレが彼女の家に訪れました。


「アンタの絡繰り人形を貸して頂戴」


スミレは嫌がるペンギーを半ば強引に自分の家の畑へと連れて行き
大判小判を掘り当てるようペンギーに命令しました。
しかし、スミレが掘り当てた物は馬の糞が大量に入った壷や粗大ゴミばかりでした。
大判小判を掘り当ててくれないのに業を煮やし、頭に来た彼女はペンギーを鍬(クワ)で何度も殴りつけました。
夕方の刻になり、スミレが蜜柑の家にやって来ました。
残骸と化したペンギーを蜜柑に突きつけ、怒りながら家に帰って行きました。


「うっ…うぅっ……ペンギー……」


残骸と化してしまったペンギーを地面に埋めて埋葬しましたが
蜜柑は何日もペンギーの墓の前で悲しみに暮れました。


******


ペンギーを埋葬してから、1週間後……。
埋葬した場所から立派な大木が蜜柑を見下ろすかのように生い茂っていました。
このまま成長し続ければ、日陰の範囲が広がってしまい
村の人達が困ってしまうだろうと思った蜜柑は、仕方なく大木を切る事にしました。
切った大木を臼にし、その臼で餅を作りました。
すると、餅をついた途端、臼の中から大判小判が温泉でも湧いたかのように吹き出したのです。
餅をつけばつく程、大判小判が吹き出して来ますので蜜柑だけでなく
餅つきの手伝いに来た村の衆は大喜びでした。


それを見ていたスミレは「臼を貸して頂戴」と蜜柑に頼み、臼を借りました。
今度こそ大判小判がザクザクと山のように手に入ると思い、その臼で餅をつき始めました。
しかし、大判小判どころか…大中小の石や、魚や獣の死体ばかり吹き出したのです。
怒りの頂点に達したスミレは臼を燃やしてしまいました。
蜜柑は、かまどから残った灰をかき集めました。
それを抱えてトボトボ…と自分の家へ帰る途中の事でした。


ビュウッ……!!


「あっ……」


灰の一部が突風に煽られ、木の枝に降りかかりました。
すると、灰の降りかかった部分に桜が咲いたのです。
蜜柑は木によじ登り…


「枯れ木に花を咲かせましょーッ!!」


灰の不思議な力により、季節外れの桜を満開に咲かせました。
その様子を若殿である棗が、この光景(花を咲かせた蜜柑)に魅入り
籠の中から出て来ました。


「おい」

「!」

「お前か?季節外れの桜を咲かせたのは」

「アンタ誰や?」

「無礼者!!この方は、我が国の若君『日向 棗』様であるぞ!!」

「下がってろ。俺は今、こいつと話し中だ」

「ですが…」

「これは命令だ」

「はっ…」


若殿の命令に、家来達は下がりました。


「季節外れの桜を咲かせるとはな…それに免じて褒美は……」

「!」


すると、棗は蜜柑をお姫様抱っこで抱きかかえました。
枯れ木に花を咲かせようとする蜜柑の懸命さに、一目惚れをしてしまったのです。

「お前を『正室』として迎えてやる」

「へっ!?えええぇぇぇぇ!!??」


※『正室』とは…お殿様の本命の妻。
 『大奥』では『御台様』と言う最上階級ランクが与えられる。


「嫌や!!ウチはアンタの正室になりたいが為に花を咲かせたんやない!!」

「ゴチャゴチャ言ってねぇで、さっさと籠に乗れ」

「乗れるかーーーーッ!!!!ボケ――――んっ…んんぅ…っ!!!!」

「………」


暴れ回る蜜柑に苛立ち始めた棗は、大人しくさせる為に濃厚なキスをしました。
蜜柑は必死で逃れようとしますが、舌が侵入し、抵抗意識が次第に薄れてきました。
キスが終わった頃には、蜜柑は力が尽きたかのようにぐったりとしていました。
これから(特に夜)の事を楽しみにしながら意気揚々と蜜柑を抱えたまま
籠の中に入り、城へ向かいました。


******


その話を聞いたスミレは残っている灰をかき集め、棗の居る大名行列に
全速力で走っていきました。
実は、スミレは以前から若殿の棗に一方的な片想いをしていたのです。


「棗様ぁ〜〜〜〜〜vv」


棗は聞き覚えのある声に、眉間に皺を寄せました。
嫌な予感がして籠の窓の引き戸を開けると、スミレが追って来たのです。
幼い頃からスミレに追い回されている棗は、彼女に対して総無視してきました。


「今日は棗様に素敵な光景をご覧にあそばせとう御座います」

「興味ない(キッパリ)」


ピシャッ…と窓の引き戸を閉め、出発するよう命令しましたが…。


「お願いします〜〜〜……。1度だけ…1度だけですから……(涙)」


おねげ〜でございます…と縋り付かれ、怒りを込めながら
「1度きりだぞ(怒)」と言いながら籠から出てきました。


「つまんねーもん見せたら承知しねーぞ(怒)」


ご機嫌斜めであるかのようにドッカリと座りました。


「それでは…この私(わたくし)スミレが、棗様に相応しい桜を美しく満開に咲かせてご覧に入れます!!」

(ついさっき、蜜柑がやったのと同じ事じゃねーか!!(怒)


スミレは、一斉に灰を木に降りかけました。
いつまで経っても季節外れの美しい桜は咲き誇る気配はありませんでした。
それだけではなく、彼女の撒いた灰が棗や城の家来達の目に入り
涙を流しながらくしゃみをしたり、咳き込む者が現れました。


「この無礼者!!何が『美しい桜を咲かせてご覧に入れます』だ!!」

「我々だけでなく、棗様に灰をばらまくとは不届き至極!!
 棗様。この者の始末はどうなさいますか?」

「……奉行所の牢にブチ込んどけ。2度と面を拝ませるな(怒)」

「御意」

「そ…そんな…!!なつめさまぁ〜〜〜〜〜!!!!!」


棗の怒りを買ったスミレは奉行所の牢屋の中へ放り込まれてしまいました。


******


こうして…城に連れてかれた蜜柑は、正室として棗の妻になり
城で盛大な祝言を挙げました。
祝言を挙げた夜から、就寝所で甘い声が響いたのは言うまでもなかったとか……




めでたし めでたし


後書き

またしても昔話によるパラレル小説をアップしました。
本来でしたら「花咲かじいさん」ですが、蜜柑が主人公でしたので
タイトルを「花咲か娘」に変更しました。
本編のラストはお約束通りです…(爆死)


配役

正直娘 蜜柑
ポチ ペンギー
強欲娘 スミレ
若殿


2005.11.11